太いケーブルをドラムに巻き付ける場合は、ケーブルが傷まないように、 ドラムに隙間なく巻き付ける必要があって、 ドラムとケーブルの外径から、 巻き付けピッチと撚込係数を求める計算が必要になります。
ドラム径に対してケーブル径が十分小さい、
つまり、b << a なら、
ドラムの中心軸を通る平面に於けるケーブル断面形状は円に近づきます。
この場合は極めて簡単で、
a = ケーブルのピッチ半径 (m) b = ケーブル半径 (m) d = 2 * (a - b) = ドラム径 (m) p = ケーブル巻き付けピッチ (m) k = 巻き付けケーブルの撚込係数 = 1巻きのケーブル長 / 巻き付けピッチとすれば、
p = 2*b (1.1) k = sqrt(1 + (π*a/b)^2) (1.2)(注1)
実際には巻き付け中心軸を通る平面に置けるケーブルの断面は円ではなくて、 巻き付けピッチが増加し、撚込係数は減少します。
ドラム径に対してケーブル径が無視できなくなると ドラムの中心軸を通る平面に於けるケーブル断面形状は楕円に近くなりますが、 この近似値としての楕円は円柱としてのケーブルを、 ケーブル中心軸と撚角 θ をなす平面で切断した断面ですから、 次ぎの関係が得られます。 (注2)
p = 2*b/sqrt(1 - (b/(2*π*a))^2) (2.1) k = sqrt(1 + (2*π*a/p)^2) (2.2)黒色の円は円近似の断面ですが、 楕円近似では僅かに断面が歪んで巻き付け方向が伸びていることがわかります。 この差は a が b に近付くほど大きくなります。 (注3)
さらに、巻き付けるケーブルの曲がりと捻れを考慮すると、 微分幾何学的計算が必要になって、 下記の結果が得られます。
p = 2*π*a*sqrt(sin(2*θ)/(2*π - θ)) (3.1) k = sqrt(1 + 2*(π - θ)/sin(2*θ)) (3.2) ここに、 (b/(a*sin(θ))^2 = 1 + 2(π - θ)*cos(θ)^2/sin(2*θ) (3.3)(3.3) 式は解析的に解けませんから、数値解法で解くことになって、 例えば
1 + 2(π - θ)*cos(θ)^2/sin(2*θ) - (b/(a*sin(θ))^2 = 0の左辺は 0 < θ < π で単調減少ですから、 2分法などが使えます。
上図は巻き付けたケーブルの 1.7 ピッチ程度を表示したもので、 緑線が巻き付けたケーブルの中心、 赤線は撚の中心を通る平面を通る撚合わせたケーブルの断面、 黒線は撚合わせたケーブルの表面形状です。
こういった計算については ワイヤ・ケーブルの微分幾何学 をご欄ください。
なお、柔軟なケーブルの場合は巻き付けると断面が偏平に歪み、 見掛けの幅が大きく、厚さが小さくなりますので、 上記で得られた巻き付けピッチより大きくなります。
巻き付けるケーブル中心の常螺旋は
伸縮することなしに平面に展開できる可展面ですから、
1 ピッチ分を平面に展開すれば、
撚込係数 k の値はピタゴラスの定理
(k*b)^2 = (2*π*a)^2 + b^2から簡単に得られます。
巻き付けるケーブルのピッチ円を含む断面を平面で近似すると、
sin(θ) = 2*b/p (4.2.1) ここに θ = 撚角 (撚の中心軸とピッチ円の角度) b = 巻き付けるケーブルの半径 (m) p = 密巻きピッチ (m)
撚角 θ については巻き付けるケーブルの中心になる常螺旋の 1 ピッチ分を
平面に展開すれば、
tan(θ) = p/2*π*a (4.2.2)
あとは (4.2.1), (4.2.2) から θ を消去して p を求めれば良いのですが、
tan(θ) = sin(θ)/cos(θ) = sin(θ)/sqrt(1 - sin(θ)^2) に注意すれば p = 2*b/sqrt(1 - (b/(2*π*a)^2) (4.2.3)撚込係数 k は
k = sqrt(1 + (2*π*a/p)^2) (4.2.4)
いずれの場合も、巻き付けピッチ p は a/b の関数になりますから
p(a/b) の値を3つの近似について計算してみると、
左図のようになって、
円近似が使えるのは 10 < a/b 程度、
楕円近似なら 5 < a/b 程度になることがわかります。
平林 浩一, 2021