伝送線路を構成する誘電体の比誘電率と、 伝送線路を伝搬する電磁波の位相速度に下記の関係があることはよく知られています。
Vp = c / sqrt(εs) (1) ここに、 Vp = 電磁波の位相速度 (m/s) c = 2.99792458e8 = 真空中の光速の定義 (m/s) εs = 誘電体の比誘電率 (εs >= 1) sqrt(x) = x の平方根 (C 言語等、プログラミング言語でよく使われる記法)
例えば、比誘電率が 2.3 である、ポリエチレン絶縁同軸ケーブルの場合は、
Vp = 2.99792458e8 / sqrt(2.3) = 1.97677293e8 (m/s)で、真空中の光速の 66 % になります。
同軸ケーブルの規格を見ると、「波長短縮率 66 %」と書いてあることも多いのですが、 これは、波動一般に、
v = f * λ ここに、 v = 波の速さ (m/s) f = 周波数 (Hz) λ = 波長 (m)という関係があって、速度が低下すれば、それに比例して波長も短くなるためです。 伝送路では周波数(振動数)は変化しません。
特殊相対論がよく知られている、現代の伝搬速度の表現としては、波長短縮率より、
速度係数 (velocity ratio) = 位相速度 / 真空中の光速のほうが良いと思いますが、 昔は、速度の測定より波長の測定のほうが簡単でしたから、 波長短縮率のほうが現場の感覚に近かったようです。
さて、(1) 式を見ると、 電磁波は誘電体中で速度が 1/sqrt(εs) に低下するように解釈できますが、 本当に、 電磁波は誘電体中で、その伝搬速度(位相速度)が遅くなると 理解して良いのでしょうか?
これが、今回の問題です。
平林 浩一, (C) 2004