同軸ケーブルのキャパシタンス/誘電体損失の周波数特性

キャパシタンス(capacitance)は 静電エネルギ(electrostatic energy)を蓄積する能力で、 導体間には必ず存在しますから、 ケーブルの特性としては導体抵抗に次いで重要な電気特性で、 例えば、ポリエチレン絶縁の同軸ケーブル「3C-2V」(JIS C 3501)では、 67+-3 pF/m (1 kHz) と規定しています。

このキャパシタンスは、 導体と誘電体の幾何学的配置と誘電体の誘電率で決まりますが、 その誘電率は原子、分子、 結晶内の正電荷と負電荷が外部電場によって それぞれの平均位置から引き離された結果生ずる双極子モーメントによって決まり、 これは周波数と温度によって変化しますので、 一般には周波数特性があります。


1図 キャパシタの並列等価回路

試しに、上記同軸ケーブルのキャパシタンスを、 手元にあった低周波用のインピーダンス測定機で、 その周波数特性を測定してみると次ぎのようになりました。 試料の長さは 1 m、インピーダンス測定のモデルは1図の並列等価回路を選びました。 良質のキャパシタはこのモデルに合います。

周波数(MHz)キャパシタンス(pF)D
167.20.0000
267.30.0000
367.40.0000
467.50.0000
567.70.0000
668.00.0000
768.30.0005
868.70.0011
969.10.0019
1069.50.0024
1170.00.0032
1270.60.0046
1371.20.0050

「D」というのは、1図のモデルで、

  D = R/(ω*C)
  ここに
	D = 誘電体の損失率
	ω = 角周波数 (rad/s)
	   = 2*π*f
	π = 3.14159265..
	f = 周波数 (Hz)
	C = キャパシタンス (F)
	R = 並列抵抗 (Ohm)
という定義ですが、 これは蓄積されるエネルギに対する損失の割合に比例していて、 エネルギ蓄積効率の良さを表す指標として使われ、 キャパシタの場合は誘電体による損失率を表します。(注1)

さて、この測定結果を、 「ポリエチレン絶縁同軸ケーブルのキャパシタンス(ポリエチレンの誘電率)と コンダクタンス(ポリエチレンの誘電体損失)は (10 MHz あたりで)周波数とともに増加する」と解釈して良いでしょうか、 つまり、 上記の測定結果がキャパシタンスと誘電体損失の周波数特性である と考えてよいだろうか、 というのが今回の問題です。

注1 - D (Dissipation factor)

1図のキャパシタの両端に交流電圧 V を加えたとき、

  D = R/(ω*C)
    = 2 * π * (R*V^2/f) / (C*V^2)
    = 2 * π * (1 Hz 毎に失われるエネルギ) / 蓄積されるエネルギ
ですが、D を tan(δ) と呼ぶ習慣もあって、 これはキャパシタに流れる全電流を C に流れる電流 Ic と R に流れる電流 Ir の2つのベクタ和と解釈したとき、 この2つのベクタの角度がδであることに起因します。

エネルギ蓄積機能を目的とした電子部品では D が小さいほうが優れていますが、 インダクタ(コイル)の場合は、D の逆数を Q と定義して、 Q が大きいほど品質が良いと考える習慣があります。

平林 浩一, (C) 2001


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