ツインリード(2芯平行線)、つまり、以下のような2つの円形導体による往復回路 を考えます。
2*a 2*a ->| |<- ->| |<- ( ) ( )___ +<-- D -->+ ここに、 a = 導体半径 (m) D = 導体間隔 (m)この回路の単位長あたりインダクタンスは
L = Le + Li (1) ここに L = ケーブルのインダクタンス (H/m) Le = 外部インダクタンス (H/m) Li = 内部インダクタンス (H/m)と、導体外部に存在する磁気エネルギに起因する「外部インダクタンス」 (external inductance)と、導体内部に存在する磁気エネルギに起因する 「内部インダクタンス」(internal inductance)に分けて考えるのが原則ですが、 最も簡単な直流の場合、通常の電気工学や物理学の文献では、
1 << D/a (2)の仮定のもとに、
Le = μ/π*log(D/a) (3) Li = μ/4/π (4) ここに μ = 透磁率 (H/m) = 4e7*π (空気や銅、アルミ等の非磁性体の場合)という公式を載せています。もちろん、log() は自然対数です。
この証明は通常後記(注1)のような方針で行われますが、2つの導体に流れる電流は それぞれ他の導体の電流分布に影響を与えないという前提のもとに得られた結論です。
しかし、現実には、一方の導体に流れる電流が作る磁束は他方の導体内部にも存在 するわけで、その影響は、導体中心近くより内側では強める方向、外側では弱める 方向になりますが、全体としては自己電流による磁束を打ち消す方向になって、 内部インダクタンスは (4) 式より小さくなるはずです。
さらに、電流が導体断面全体に分布している以上、錯交磁束は a から D - a までの 間だけに存在するわけではなくて、D - a から D + a までの間にも存在しますから、 外部インダクタンスは (3) より大きくなるはずです。
つまり、(2) 式の条件は、他の導体をはるかかなたに配置することで、この相互作用 を考えなくてすむようにしているわけですが、現実のケーブルの D/d は 2 程度が 普通で、とても (2) 式を満足するとは言えません。日本人の選挙権などは、 数倍の開きがあってもなお裁判所は同じと見なします。
そうなると、(2) 式が成り立たない現実のケーブルに (3), (4) といった公式を 適用したとき、一体どの程度の誤差が生ずるのか、正しい計算は可能なのだろうか といった疑問が生まれますが、この疑問が今回の問題です。
注1 - (3), (4) の標準的な計算法
外部インダクタンスについては、導体の全電流を I とすれば、単独円柱導体外部で 導体中心から r 離れた点の磁界の強さは
He = I/(2*π*r) (A)と簡単に計算できますから、 2本の導体の間に存在する単位長あたりの錯交磁束で、一方の導体の電流に起因する ものについては、
D-a Φ = μ/2/π*I*∫((1/r)*dr a = μ/2/π*I*log(D/a)これは、もう一方の導体についても同じ方向と同じ大きさですから、この回路の 錯交磁束はこの2倍になって、後はインダクタンスの定義から
Le = Φ/I = μ/π*log(D/a)が得られます。
内部インダクタンスについては、単独円柱導体内部の導体中心から r 離れた点に おける磁界に強さ
Hi = I*r/2/π/a^2から、導体内部の磁気エネルギ Ui を計算して、
Ui = (1/2)*Li*I^2の関係から内部インダクタンスを求めるのが簡単で、
a Ui = ∫((1/2)*μ*Hi^2*2*π*r)*dr 0 a = I^2*μ/4/π/a^4*∫(r^3)*dt 0 = μ/16/π*I^2から、
Li = μ/8/πと計算するのが普通です。
平林 浩一, (C) 1999