「ツイステッド・ペア」の効能

ダイレクト・メイルで届いた「データ通信、LAN、コンピュータ用周辺装置、工業 用コンピュータ、ソフトウェア総合カタログ付録 - ケーブル専用カタログ保存版」 という冊子 (注1) に、「RS-232C 長距離伝送ケーブル、2重強化アルミシールド、 RFI/EMI 対策、UL、CL-2 規格」というのがあって、英語版からの和訳か、少し読 みにくいのですが、次のような効能書きが付いています。

RS-232C インターフェースは通常最大 15 m と規定されています。これ以上を延長 する場合には RS-422 のように平衡型とするか構内モデムを使う必要があります。 しかし伝送距離が 150m 以内で 9600bps のスピードの場合には米国製の静電容量 の低い特殊なケーブルを使用することにより実現可能です。CC27 シリーズの長距 離伝送ケーブルは誘電率の低い絶縁体を使っているために静電容量が極めて低く、 この結果、波形の立ち上がり、立ち下がりのナマリが少なく、また導体は AWG 34 のツイストペア線を使用しているため直流抵抗が低く減衰も少なくなっています。 一方2重強化アルミシールドを施しているので外部に対するスプリアス(不要輻射) を最少に押さえています。このことは逆に外部からの雑音に対しても強くなってい ます。
そして、この後、さらに次のような「Q&A」がついています。
Q. なぜ長距離伝送ケーブルはRS-232C 規格の 15m 以上を延長できるのですか。 A: 一般のコンピュータケーブルは、ケーブルの相互キャパシタンス(静電容量) が大きいため、高速データを長い距離で送る場合は信号の出力波形がダレたり、 クロストークのためにエラーを起こします。一方、長距離伝送ケーブルは静電容 量が極めて少なく導体も AWG 24 と太いため、直流抵抗も低く、10 倍も伸ばすこ とができます。 Q: 雑音に対しては強いですか。 A: RFI (Radio Frequency Interference) や EMI (Electro Magnetic Interference) 対策用に強化アルミフォイールのシールドを施していますので不要輻射(スプリア ス)が少なく、一方、外部からの雑音に対しても強くなっています。 .. Q: 導体はツイストペアを使っていますか。 A: もちろん使っています。各線は色分けしていますので、ケーブル製作時にわか りやすくなっています。 ..

さて、この「ANSI/EIA-232」の仕様の要点は次のようになります。

  ドライバ
    最大出力電圧     +-15 V  (無負荷)
    最少出力電圧     +-5 V (3 kOhm 負荷)
    スルーレイト     30 V/us 以下
  レシーバ
    最大入力電圧     +-25 V
    入力抵抗         3 kOhm 以上 7 kOhm 以下
    スレショルド電圧
        論理 0 (ON)  +3 V 以上
        論理 1 (OFF) -3 V 以下
    実効負荷容量     2500 pF 以下
  最大伝送速度       20 kbps
-3 V と +3 V の間は論理が決まらない過渡領域になりますが、データ信号の場合 は、この間を公称信号間隔の 4 % (V.28 では 3 %)、制御信号の場合は、1 秒以内 で通過しなければならないという規定があって、これからドライバの出力インピー ダンスの上限が決まります。

一般のケーブル伝送では、キャパシタンスと波形の鈍りは関係ありませんが、 「RS-232」の場合はケーブルの特性インピーダンスとトライバやレシーバのインピ ーダンス・マッチングをとらないため、ドライバの出力インピーダンス (正確には ドライバの出力インピーダンスとレシーバの入力インピーダンスの並列合成抵抗) とケーブルを含む負荷のキャパシタンスの積で波形の立ち上がりが制限されますの で、このキャパシタンスの合計を 2500 pF 以下に制限しました。そのため、キャ パシタンスの低いケーブルを選択すれば長距離で使えるようになります。

ただ、レシーバの入力インピーダンスが 3 kOhm から 7 kOhm ですから、この広告 の 24 AWG の 1/2.5 の断面積である 28 AWG の導体を 200 m で使ったとしても、 往復の直流抵抗は 86 Ohm 程度で、3 kOhm の 3 % 程度にしかならず、この効能書 きで主張している直流抵抗の低さはほとんど意味がありません。

また、電圧振幅が大きく、スルーレイトも制限されていますから、シールドについ てはあまり神経質になる必要もなく、ほとんどの環境でシールドなしのケーブルが 使えることは、例えば、もっと厳しい条件の「10 Base-T」がシールドなしで使わ れていることからも、想像できると思います。シールドと言えば、別のメーカの広 告には「とくに非シールドのため接続、分岐などの端末加工が容易。」といのもあ りましたから、売り方というのも、なかなか面白いものです。(注 2)

ところで、この効能書きで重視している「ツイステッド・ペア」は2本のワイヤを 撚合わせることで、対間の相互インダクタンスを減らし、信号のクロストークを減 らすのが最大の目的で、クロストーク対策としては、最も基本的な技法の一つです から、この広告が主張するように、とても大切なことかもしれません。

しかし、それにしては、ほとんどの「RS-232」接続では、ツイステッド・ペアを使 わない、ごく単純なケーブルも多量に使われていて、問題なく動いているようにも 思えます。

果たして、この広告が主張するように、

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  ツイステッド・ペアは RS-232 ケーブルで有効なのでしょうか
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それとも、ガマの油売りみたいの口上みたいに、まったく意味のないものなのでし ょうか。

これが今回の問題です。

(注 1) IBS Japan, 1997
(注 2) 1995-04-27 日刊工業新聞

平林 浩一

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