IEEE Std 518-1977 のインダクタンス計算

電磁干渉(ノイズ)の一番簡単なケースが、共通インピーダンス結合 (Common Impedance Coupling) によるものですが、「IEEE Std 518-1977 IEEE Guide for the Installation of Electrical Equipment to Minimize Electrical Noise Inputs to Controllers from External Sources」(外部からコントローラへのノイ ズを最小限に抑えるための電子機器の設計に関する IEEE ガイド) に、次のような 解説があります。

[Single-Ended Circuit with Long Common Wire]

2図の表題は「長いワイヤを共有する不平衡回路」という意味ですが、「TC」は熱 電対、「AR1」と「AR2」は増幅器、「1a」は電源「Ebb」を使って負荷「LOAD」を ON/OFF する接点です。「A」「B」間の配線には、長さ 50 ft、導体サイズ 12 AWG の電線が使われていて、これが熱電対のアンプと機械式接点で制御される負荷の制 御回路で共通に使われています。

この規格がこの例で主張している問題は2つあって、一つは直流的な干渉、もう一 つは過渡現象的な干渉です。

直流的な干渉については、「A」「B」間の電線の直流抵抗が 0.08 Ohm だから、負 荷電流が 0.5 A だとすると、負荷電流による「A」「B」間の逆起電力が 0.040 V になって、「AR2」の増幅度を 100 とすれば、鉄・コンスタンタン熱電対の 100 F あたりで 4 F 程度のの誤差になってしまうというもので、これは容易に確認でき ると思います。

過渡現象的な干渉では、閉じていた接点「1a」を開放するケースを考えています。 機械式接点の場合は、およそ 1 uS の間に電流が 0.5 A から 0 に変化するため、 自己インダクタンスを考慮しなければならないとして、

  L = 0.002*l*log((2*l/r) - 3/4)      [uH]

  ここに、L = 直線導体の自己インダクタンス [uH]
          l = ワイヤの長さ [cm]
          r = 導体径 [cm]
という公式を「高周波に於ける直線状導体の自己インダクタンス」(self-inductance of a strait wire at high frequency) として提示し、この条件では、l = 1524 cm、 r = 0.205 cm だから、
  L = 3.05*(log(2*1524/0.205) - 3/4) = 27 uH
さらに、インダクタンスの回路的特性、
  Vab = L*(di/dt)
を考慮すれば、
  Vab = 27e-6*(0.5/1e-6) = 13.5 Vpeak
の電圧が発生するという結論です。

このインダクタンスの公式については、「通常、インダクタンスは完全な回路に付 随する特性であるが、回路を構成する個々のセグメントに分解することもできて、 この手法を使えば、電流の時間的変化を元に、誘導起電力を計算することができる」 (Normally inductance is a property attached to a complete circuit, but it is possible to attache a value of inductance to each segment making up a circuit.) として、下記の文献から導出したとしています。

Grover, F. W.,- Inductance Caluculations
        New York: Van Nostrand, 1944, p35, Equation(7).

「IEEE」(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.) はア メリカの電気学会 (1) に相当する組織で、その規格である「IEEE Std」は世界の 電気・電子技術の根幹になっているものですが、はたして、ここで行われている 「Vab」の計算は信用できるものでしょうか。例えば、ワイヤの長さ「l」を短くし てゆくと、「Vab」は負になったり、なにか違和感が残ります。

注 1) 名前からして日本より民主的ですが、昔、ドイツの首相をしていたシュミッ トさんに言わせると「日本は民主国家になりません」ということで、何度戦争に負 けても官僚国家のままで、人民は選挙への興味も持てない夢のない国ということに なるのかもしれません。

平林 浩一

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