少し昔の本ですが、「電気理論演習 III」(オーム社)というのがあって、396 ページに次のような例題がでています。理工学否定の「JIS」漢字コードで書きま すので、微分記号が見にくい点、ご了承ください。
[例6] 第 2.8 図の回路において、L および C の並列回路が電源周波数に共 振する場合、t=0 において交流電圧 e=E*cos(ω*t) を加えるときの過渡電流 i を 求めよ。ただし、初期値はすべて零とする。
[解] 電源電流を i1、静電容量に流れる電流を i2、インダクタンスに流れる
電流を i3 とすると、この場合に成り立つ式は
i1 = i2 + i3 (1) R*i1 + L*(d(i3)/dt) = E*cos(ω*t) (2) L*(d(i3)/dt) = (1/C)*∫i2*dt (3)の3式である。
(3) 式より L*(d^2(i3)/dt^2) = i2/C、また、題意により ω=1/√(L*C) であるから
i2 = (1/ω^2)*(d^2(i2)/dt^2) (4)となる。(2) 式より
d(i2)/dt = (E/L)*cos(ω*t) - (R/L)*i1 (5)これを t で微分して、
d^2(i3)/dt^2 = -(E/L)*ω*sin(ω*t) - (R/L)*d(i1)/dtこれを (4) 式に代入すれば、
i2 = -(E/(ω*L))*sin(ω*t) - (R/(ω^2*L))*d(i1)/dt (6)となる。(5) 式をt で積分すれば、
i3 = (E/(ω*L))*sin(ω*t) - (R/L)*∫i1*dt (7) (6) 式と (7) 式からi1 = -(E/(ω*L))*sin(ω*t) - (R/(ω^2*L))*d(i1)/dt + (R/(ω*L))*sin(ω*t) - (R/L)*∫i1*dt = -(R/(ω^2*L))*d(i1)/dt - (R/L)*∫i1*dtすなわち、(R/((ω^2*L))*d(i1)/dt^2 + i1 + (R/L)*∫i1*dt = 0これを t で微分すると(R/(ω^2*L))*(d^2(i1)/dt^2) + d(i1)/dt + (R/L)*i1 = 0この方程式の解は、t=A*exp(γ*t) の形になるが、t=0 で i1=0 なる初期条件 を代入すると i1=0 になる。また、(6) 式よりi2 = -(E/(ω*L))*sin(ω*t)(1) 式よりi3 = (E/(ω*L))*sin(ω*t)が求まる。すなわち、過渡電流は発生しない。以上が例題とその回答ですが、問題のミソは、正弦波の電源に対して L と C が 並列共振になっていることにあって、定常状態を問題にする交流理論では、L-C の並列回路のインピーダンスが無限大になりますから、i1 が零になるのは当然で すが、話しが過渡状態となると、「i1 が恒常的に零で、過渡電流は発生しない」 という回答は、何かしっくりしません。
もし、この回答が正しいとすると、
初期状態では流れていなかった電流 i2 と i3 によるエネルギは、 i1 なしで、どうやって電源から運ばれるのだろう。という疑問がでます。さらに、i1 が零である以上、電源のエネルギ損失はありま せん。そうなると、この方法で、L-C の並列回路にエネルギを与えては、その後 で、L-C の並列回路に R を接続する等の方法でエネルギを取り出せば、電力のい らない電気ストーブができます!つまり、何の代償もなしに、無限にエネルギを生み出すことができるわけで、物理 学の根本である、エネルギ保存則に反します。しかし、この本は大学の電気工学の 専門過程で教えることを目的に、その道の専門家によって書かれたものですから、 いいかげんな記述とも思えません。はたして、これは、どうなっているのでしょう か。
平林 浩一