リード線のインダクタンスの謎

電気工学の実用書には、よく、「リード線のインダクタンス」というのがでてきま すが、例えば、「解析ノイズ・メカニズム」(CQ出版) の 120 ページには、次の ような式が掲載されています。

  L = 2*l*(log(4*l/d) - 3/4)             (nH/m)             (1)

  ここに、L = リード線のインダクタンス (nH/m)
          d = リード線の直径 (cm)
          l = リード線の長さ (cm)
しかし、これを回路計算に適用する前に、少し考えてみてください。この式にはまこ とに不可解な点があります。まず、リード線の単位長さあたりインダクタンスは L/l ですから、
  (1) リード線の長さが長くなるに従って、単位長さあたりのインダクタンスは
      無限大に近づきます。
これは、どう見ても物理的に変ですが、さらに、
  (2) リード線の長さが半径の 1/2 のとき、インダクタンスは 0 になります。!
それなら、半径の 1/2 の小さな断片を直列に接続すれば、インダクタンスのない 配線ができそうで、ますます不可解。しかも、
  (3) リード線の長さが半径の 1/2 未満のとき、インダクタンスは負の値になっ
      て、長さが 0 に近づくと共にインダクタンスも負の無限大に近づきます。!!
となると、負のインダクタンスを持つ回路的ができることになりますが、もともと、 インダクタンスは、電流に対する慣性で、電流の変化を「妨げる」機能を持つ回路 素子ですから、インダクタンスが負になると、電流の変化を助長することになって、 ごく僅かな電流を流してやれば、どんどん電流が増加し、どこかから銅線の切れ端 を拾ってくるだけで、地球のエネルギ危機は一気に解決という驚くべき結果が得ら れます。もちろん、これはエネルギ保存則という物理学の根本に抵触し、ありえな い話しです。

上記の本にはこの式の根拠について、何の説明もありませんが、多分、Newmann の 式を元にした「幾何学的平均距離」(G.M.D.) から計算されたものを引用したもの と思われます。例えば、古典的な名著、

  竹内説三,-「電磁気学現象理論」(丸善)
の 392 ページを見てください。
  L = (μ0*l)/(2*π)*(log(2*l/a) - 3/4)    (H/m)            (2)
  ここに、L = 円柱導体のインダクタンス (H/m)
          a = 円柱の半径 (m)
          l = 円柱の長さ (m)
という公式がでています。リード線は円柱状の導体ですから、μ0 が真空の透磁率 (4*π*1e-7 H/m) であることを考慮すれば、(1) と (2) は完全に一致します。

つまり、この「リード線のインダクタンス」は、確かな理論的裏付けがあるように も思えますし、一方では、前記の大きな矛盾を含む以上、これを信ずれば、現代物 理学の根本を否定することになります。

はたして、この「リード線のインダクタンス」、いったいどうなっているのでしょ うか。

平林 浩一

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