ケーブルのパルス応答

これは 3D-2V 程度の同軸ケーブルを長さ 100 m で使用したときのステップパルス応 答波形です。立上りが急で、その後緩やかに上昇する波形は、C-R の充電波形などで おなじみですが、電気工学の伝送理論では、ケーブルの高周波に於ける2次定数は R《ωL, G《ωC の条件が成立するため、

 α ≒ R/Z0/2 + G*Z0/2
 β ≒ √(L*C)

 ここに、α = 減衰定数 (neper/m)
     β = 位相定数 (rad/m)
      L = ケーブルのインダクタンス (H/m)
      C = ケーブルのキャパシタンス (F/m)
      R = ケーブルのレジスタンス (Ω/m)
      G = ケーブルのコンダクタンス (S/m)
      G = ケーブルのコンダクタンス (S/m)
     Z0 = ケーブルの特性インピーダンス (Ω)
になるとしています。

一方、R には大きな周波数特性があって、高周波では渦電流により、周波数の平方根 に比例して増加しますが、良質の誘電体材料を使う限り、C, L, G には周波数特性が ありません。つまり、「高周波のケーブルでは位相歪がなく、減衰歪だけが存在する」 ということになりますが、この事実は簡単な測定で確認することができます。という わけで、伝送理論には原理的な誤りはありません。

ところが、もしこれが事実なら、線形回路理論からすぐわかるように、減衰歪は単に 波形を鈍らせるだけですから、波形の立ち上がりの最初の部分と最後の部分は対称に なるはずで、立ち上がりの最初が急で、最後がゆるやかに変化するはずがありません。 つまり、下記のような波形になるはずです!

こうして、同じ電気工学で、それぞれ正しいとされている「伝送理論」と「回路理論」 に矛盾がでることがわかりました。一体これはどうなっているのか。これがこのパズル の問題です。

昔、私は、何人かの人にこの疑問を尋ねてみましたが、明快な回答が得られた経験は ありません。何らかの回答を与えた人も「ケーブルの R による C の充電波形だ」と 言うのですが、考えてみてください。「高周波のケーブルでは R, L, C, G のような 1次定数を考えることそのものに無理があって、波動を基本にした、2次定数で考え なければならない」というのが、伝送理論の基幹ですから、今度はあれほど信頼に満 ちた伝送理論を否定することになってしまいます。果たして、真実はどこにあるので しょうか。

注1 減衰定数と位相定数の高周波近似

これは、厳密な式

 α + j*β = √((R + j*ω*L)*(G + j*ω*C))

 ここに、j = sqrt(-1)
     ω = 角周波数 (rad/m)
を R《ωL, G《ωC の条件で近似するだけの簡単な計算です。

平林 浩一

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