高断熱高気密住宅の難しさ

長年仕事で暮らした長野県塩尻市から 東京都世田谷区の自宅に戻れることになったものの、 両親の介護と看取りを塩尻でせざるをえなかったため、 長年無人になった自宅は廃虚と化して、建て替えしかありません。

私自身は自宅を建てた経験がなかったのですが、 省エネルギと居住性重視で、 高断熱高気密住宅第1種機械換気エアコンによる全館集中冷暖房で割り切ることにしました。

自然換気を使わない以上、停電したら終りですが、換気システム停止警報は バッテリバックアップの CO2 監視装置に頼ることにして、 停電時は窓開放と割り切りました。 全熱交換気だと空気中の水蒸気の加熱冷却エネルギが大幅に減りますから、 ランニングコストを気にせずに、冷暖房を小容量のエアコン1つで賄えます。

住宅自体の設計施工は難しくなりますが、 この方向で技術開発を行っている工務店もあって、 そのうち一社にお願いすることにしました。

結果としては、最大消費電力 1.5 kW のエアコン1台で 2階建て述べ床面積 190 m^2 の家屋全体の冷暖房ができて(注1)、 年間通して不快指数(Temperature-Humidity Index) 65〜70 を維持できますから、 住み心地は非常によく感じます。 ただし、暖房期の加湿器と冷房期の除湿器は必要で、 これらの組み合わせで人間より敏感なピアノも 調律とアクションが非常に安定します。

しかし、実際に暮らして見ると、高断熱高気密住宅固有の難しさもあって、 高気密住宅では部屋単位の CO2 濃度センサの設置が必須 といった問題にさえ気づかずに暮らしている方も多いようですから、 ここでは、住み始めてから直面した課題のいくつかに触れてみたいと思います。

以下、

といった問題ですが、すべてが換気に関係しています。

1. 換気・空調システム

前記の方針だと、住宅の換気系は下記の構造になります。 屋外からの吸気口は一箇所ですから、 外気の取り入れ口にかなり厳重なフィルタを設置できて、 花粉時期の暮らしは非常に楽になりますし、 PM2.5 等の微粒子もかなり捕捉できますが、 ダクト配管の空気抵抗をいかに減らすかの工夫が重要で、 これが設計施工者の勝負所になります。

                  +<- エアコン <- 小屋裏空間 <- 階段、廊下など
  外気 -> 熱交換ユニット ->+-> 給気ダクト -> 給気グリル -> 居室 
          \/      +-> 給気ダクト -> 給気グリル -> 居室 
          /\      +-> ..
  外気 <- 熱交換ユニット <-+<- 排気ダクト <- 排気グリル <- 居室 
                  +<- 排気ダクト <- 排気グリル <- 居室 
                  +<- ..
  全熱交換器換気風量 180, 200, 220, 240, 260, 280, 300 m^3/h から選択
  エアコン風量 540, 660, 780 m^3/h から選択
  家屋の換気対象気積 503 m^3

1図 換気・空調システム

給気ダクトと排気ダクトは居室毎に一組あるいは複数組が敷設され、 末端に開度調整可能なグリルが付いていて、風量配分を調整できます。

また、給気ダクトを複数まとめて、各グループ間の給気配分を変えるための ダンパーもありますが、 ダンパーは空気抵抗を増やしますから、 最後の調整手段になります。

全熱交換器の換気(給排気)量は建築基準法第28条の2、 建築基準法施行令第20条の8、第129条2の6による機械換気則を満たすように 280 m^3/h を標準設定としています。 また、春や秋の夜間外気冷房が使える時期には、 熱交換器を使わずに換気することもできます。

全熱交換器とエアコンは小屋裏(2階と屋根の間の空間)に置かれていて、 エアコン室内機はリビング、キッチン、洗面、玄関、廊下、 寝室などの個室を経て、 廊下、階段からから小屋裏に流入する空気を冷却または加熱して、 熱交換器経由で取り込んだ外気と共に 給気ダクトを経由して各部屋に戻します。

空気の比熱が小さいため、 全家屋の冷暖房をエアコンで行うには、 エアコンの風量が換気に必要な風量の 4 倍程度になって、 給気ダクトの風量はエアコンが稼働しているか停止しているかで大幅に異なり、 エアコン稼働時と停止時では換気の仕組みが違ってきます。

2. 家屋全体の換気 - 都市部の外気 CO2 汚染

換気の主目的は人間が排出する CO2 ガスと排熱(100 W 程度)の除去ですが、 家屋全体に必要な換気量は住人の人数と活動状況と人数で決まります。 (注2)

建築基準法(施行令第20条の2第2号)では

  必要換気量(m^3/h) = 20 * 居室の床面積(m^2) / min(1人当たり占有面積(m^2), 10)
を規定していますが、これは安静時の必要換気量で、 しかも、外気 CO2 濃度 350 ppm を前提としています。

しかし、都市部では 500 ppm から 600 ppm、 場合によっては 700 ppm に達することもあって、 建築法規を満たしていても換気不足になります。 (注3)

注2の (1) 式で必要換気量を決める外気 CO2 濃度の影響は 室内 CO2 濃度上限を 1000 ppm とすると

  1 / (1000 ppm - 外気 CO2 濃度 ppm)
ですから、外気 CO2 濃度が 400 ppm から 600 ppm に増加すると、 必要な換気量は 2 倍になって、 簡単に建築法規を満たす換気設備の能力を越えてしまいます。

つまり、日本の建築法規は日本の都市部の環境に合わないのです。

3. 個室の換気 - 個室は換気を難しくなる

家屋全体が一部屋になっていれば簡単ですが、 個室を作ると家屋全体としては必要換気量を満たしていても、 個室では換気不足になるケースが増えます。 原因は人がいない個室も換気が行われるため、 家屋全体の換気量を有効に利用できないことにあります。

1図の構造でエアコンが稼働していない場合は、 個室の場合は排気グリルから吸い込まれる風量が換気量になります。 実測してみると分かりますが、 ドアのアンダーカットを通る空気の流れはごく僅かで、換気に貢献しません。 もちろん、ドアを開けておけば解決しますが、 個室の意味が失われます。

この家屋ではダイニングキッチンと一体化したリビング、 3つの寝室、書庫と一体化した仕事部屋、収納部屋、バス、トイレ といった部屋に分かれていますが、 住み始めた当初の寝室の換気量は 12, 15, 16 m^3/h でした。

一方、一人が使う寝室で必要な換気量は外気 CO2 濃度 400 ppm でも 22 m^3/h ですから、就寝中に 1000 ppm を越えて、 CO2 センサの警報で起こされることになります。

熱交換器の風量調整や、排気グリルの調整では、この換気不足問題を解決できません。

4. 根本的な解決 - on demand ventilation

1図のシステムで個室があると換気不足になる原因は、 換気を必要としない人が居ない部屋も換気が行われるためですから、 ダクトに電動シャッタとか電動ダンパーを入れて、 人が居るときだけ必要量の換気を行うようにすれば、 家屋全体として必要最小限の換気量で済みますし、 日本全体、世界全体で、これを行えばエネルギ負荷は大幅に減ります。

技術的には、NDIR(非分散型赤外分光 - Non Dispersive Infrared) の CO2 濃度センサは非常に安くなりましたし、 コンピュータも同様。 電動シャッタも量産すれば安価です。

既に換気に大電力を消費する施設では、 こういった手法が使われていますし、 BACnet(Building Automation and Control Networking protocol - ASHRAE/ANSI/ISO 規格)の CO2 センサも販売されています。

また、自作も難しくはありません。 しかし、日本では考える人がいない。 為政者と官僚が進める思考力を奪う『日の丸教育』の成果みたいです。

5. 目先の解決 - エアコンの連続稼働

ダクトの電動シャッタや電動ダンパーを使わない対策としては、 屋内空気の拡散に使われるエアコンを換気にも利用する方法があります。

個室の換気システム(排気風量)で不足する換気量を エアコンの給気風量で補うのです。 つまり、排気ダクトの風量でなく、換気を受け持つ熱交換器と空調を受け持つエアコン の両方を稼働させた状態で、 給気ダクトの吹き出し風量を必要換気量を満たすように調整します。

この場合は、人体が廃棄した CO2 の 1/4 程度を換気システムが直接屋外に排出し、 残りはエアコンが家屋全体に拡散して、 他の部屋と共有部分を経由して屋外に排出することになります。

この方針では、 本来エアコンを必要としない時でも、エアコンを送風モードで運転するとか、 エアコンの設定温度を屋外機が動かないような温度にして 運転を続けることになります。

これは一見無駄みたいですが、エアコンによる集中全館冷暖房を選んだ以上、 家屋全体の温度を一定にするにはエアコンの運転は必要と、 多少の無駄を受け入れる言い訳にはなります。 (注5)

6. 停電対策 - 警報付 CO2 センサは必須

高機密住宅の場合、就寝中の停電による換気停止が重大な問題で、 住人が気づいて、ドアや窓を開けるしかありません。 ただ、眠ってしまうと、開けられない。

いつ、いかなるときも気づくための最も無難な方法は、 停電時はバッテリで動作する警報付 CO2 センサをすべての部屋に 配置することだと思います。 幸い今は、こういった用途の CO2 センサが容易に入手できるようになりました。 ただし、購入する場合は ABC Calibration (Automatic Baseline Calibration) を禁止できる機種を選定してください。 これを無効化しておかないと、一定期間の CO2 濃度の最低値を 400 ppm にしてしまいますので、 常時人が居る家屋とか、 もともと屋外 CO2 濃度の高い地域では大きな誤差がでます。

ほとんどの停電は 2 秒以内に復帰する瞬停で、 誘導雷などによる送電系統の故障が原因ですが、 私自身も深夜の就寝中に CO2 センサの警報で瞬停に気づいたことがあって、 瞬停を検出して、サーバー用 UPS の電源で非常ベルを鳴らす設備を自作しました。

熱交換器とエアコンの両方が瞬停で運転停止した後、 元の状態に復帰してくれると良いのですが、 Panasonic の熱交換器は「安全のため」という理由で、 ごく短時間の瞬断でも運転を停止してしまいます。 住人の私から見ると、狭い寝室で就寝中に瞬停で換気が止まると、 CO2 濃度は急激に上昇しますから、 安楽死の危険さえありますし、 災害時には受電設備のブレーカが落ちますから電気事故対策は他の設備に任せるべきで、 利用者が復電後自動復帰するかどうかを選択できるようにすべきだと思いますが、 Panasonic の場合はダメ。利用者の生命がかかる自由な選択は認めてくれません。

一方、DAIKIN のエアコンも瞬停で停止してしまうのですが、 こちらは「コンタクトセンター」に問い合わせたら、 「50ms 以下の停電は運転継続、 50ms 以上の停電は運転停止後「停電自動復帰」設定がされていれば、 1 分ほどの内外通信確立後運転開始」ということで、 エアコンが運転再開すれば屋内拡散はできますから、 重大事故のリスクは大幅に減ります。

で、工務店さん経由で、そのやりかたを聞いたら、 「安全のため教えられない」と言われてしまったそうです。 仕方ないので、リモコンの釦操作をいろいろ試してみたら、 設置時設定の方法がわかって、 無事設定変更できました。 その後、インタネットで公開されている設置マニュアルを見ると、 ちゃんと操作方法が書いてあるのですが、 停電自動復帰については記述がなく、 工事担当者でも、できないと思いこみそうな記述。 しかし、実際に設置時設定の操作を実行すると、 マニュアルには書かれていないメニューが出て来るのでした。 「コンタクトセンター」で教えてもらえなければ、 あきらめたかもしれません。

7. 換気グリルの調整

1図のシステムだと、 家屋の1ケ所の排気グリルや給気グリルの開度を変えると、 家屋全室の換気量配分が変ります。

この変化の予測は極めて難しいので、 私の場合は住人が長時間居る部屋すべてに、 CO2 センサを設置して、 10 分毎の記録を残し、 その変動をグラフ表示して見ながら、 調整を続けましたた。

8. 住宅付属設備の問題

住宅付属設備で苦労が絶えないのが、 キッチンのレンジフード(換気扇)とガス乾燥機です。

8.1. キッチンのレンジフード

キッチンのレンジフードはガスレンジで発生する多量の CO2 と 調理で発生する油煙の除去ですが、 これは本来局所換気でなければなりません。 家屋全体の換気システムを使う方針には無理があります。

しかし、高機密住宅用として市販されている製品は 排気風量の 1/2 程度しか外気を取り込まないのです。 しかも、取り込んだ外気をガスレンジに戻さず、 レンジから遥かかなたに吹き出す設計になっていて、 給気不足による渦の発生と合間って、 家中に油煙を拡散してしまいます。

理解に苦しむ設計なので、クリナップの営業担当者に説明してみたのですが、 理解してもらえません。

たまたま選んだクリナップの製品に吸気ファンがなくて、 屋外との気圧差で外気を入れる設計になっていたため、 給気と排気の両方にファンを備える製品も調べてみると、 これも給気量は排気量の 1/2 程度になっていて、 意図が理解できませんでした。

8.2. ガス乾燥機

ガス乾燥機と洗濯機の組み合わせは非常に能率的ですが、 屋外に排出される排気量に相当する空気を屋内から取り込む設計で、 高機密住宅では無理があります。

現時点ではかなり無理な運転をしながら使っていますが、 機器側か建築側での工夫が必要な機器です。

続く

注1 - この住宅のエアコンの電力消費量

2016/10〜2017/09 までの年間電力量は 3,364 kWh でした。 現時点の電力単価は東京ガスで 27.0 円/kWh ですから、 電力料金は年間 90,700 円程度になります。 季節変動は次ぎのとおりで、冬期の暖房より夏期の冷房負荷が大きくなります。 夏期のエアコンのドレインからは多量の水が排出されます。

月    1     2     3     4     5     6     7     8     9    10    11    12
---------------------------------------------------------------------------
kWh 372.7 272.9 265.6 108.9 174.2 173.8 600.9 508.3 264.1 193.6 180.0 249.7

なお、換気系全体としては全熱交換気の電力 74.5 W が常時稼働していて、 年間 653 kWh になります。

注2 - 換気量の決定

法規制については三菱電機による 必要換気量の求め方がよくまとまっていますが、 家屋全体としての CO2 濃度の変化は単純な微分方程式

  C0*Q*dt + M*dt - C*Q*dt = V*C
  ここに、
  C = 屋内 CO2 濃度 (ppm)
  C0 = 屋外 CO2 濃度 (ppm)
  M = 屋内 CO2 発生量 (m^3/h)
  V = 屋内容積 (m^3)
  Q = 換気量 (m^3/h)
  dt = 時間微分 (h)
で近似できて、 時刻 t = 0 に於ける屋内 CO2 濃度を Cs とすれば
  C = C0 + (Cs - C0)*exp(-Q/V*t) + M/Q*(1 - exp(-Q/V*t))
定常状態(steady state)なら t→∞ なら exp(-Q/V*t)→0 ですから
  C = C0 + M/Q
過渡状態の変化速度を決める時定数(time constant)は V/Q ですから、 M 急変後の過渡状態継続時間は 3*V/Q (h) と見てよいことになります。

換気システムが停止した場合は、家屋全体としては 住人が家屋から退去するか死ぬまで

  C = M * t / V
で増加します。

屋内 CO2 濃度が C を越えないように管理するのに必要な換気風量は 定常状態の等式から次のようになります。

  Q = M / (C - C0)                                    (1)
  ここに、
	Q = 換気量 (m^3/h)
	M = CO2 発生量 (m^3/h)
	C = 室内の汚染濃度 (m^3/m^3) .. ppm なら 1e-6 倍)
	C0 = 導入空気の汚染濃度 (m^3/m^3) .. ppm なら 1e-6 倍)
室内 CO2 汚染濃度の上限を 1,000 ppm にするのが建築基準法の原則ですが、 他の法律も同様で、国際的な基準になっています。 (注3)

外気 CO2 濃度としては多くの規則で大気の平均的な CO2 濃度である 400 ppm が使われています。 私が以前暮らしていた長野県塩尻市の住宅街と農地の境界あたりとか、 子供の一人が働く横浜市神奈川区の比較的海に近い場所では 400 ppm でした。

しかし、この住宅がある東京都世田谷区の住宅地(小田急線豪徳寺駅近く)だと、 幹線道路もないのに、外気 CO2 濃度は 500 ppm 前後が普通で、 無風状態だと 700 ppm に達することがあって、 寝苦しかったり、 CO2 センサの警報で起こされます。 屋外 CO2 濃度は風向きと風速の影響が大きいようで、 季節風が強い冬期だと 400 ppm を僅かに下回ることもあって、 こういう時は爽快です。 (注4)

CO2 発生量 M については、例えば、空気調和・衛生工学会規格(HASS 102-1996)だと

  作業程度  CO2 発生量(m^3/(h*人)
  安静時    0.0132
  極軽作業  0.0132 - 0.0242
  軽作業    0.0242 - 0.0352
  中等作業  0.0352 - 0.0572
  重作業    0.0572 - 0.0902

といった目安がありますが、 この値は外気と室内の CO2 濃度実測値を元に (1) 式から計算した M とよく合います。

この住宅で暮らせる人数、つまり、許容人員は、 家庭ですから重作業はしないことにして、CO2 発生量が 0.04 m^3/h/人なら、 外気 CO2 濃度 400 ppm で 260 m^3/h の換気量で 4 人、 外気 CO2 濃度 600 ppm だと 2.6 人に減ってしまいます。

軽作業で 0.03 m^3/h なら 33 % の余裕ができますから、 目安としては 4 人なら家屋全体としては間に合うことになります。 さらに人が増えれば窓を開けるしかありませんが、 花粉や埃が入ってきます。

以上が建築基準法が対象とする「家屋全体の換気」ですが、 実際に住んでみると、これでは済まなくなります。 換気は部屋毎に条件が違うのです。

また、建築基準法が要求する「家屋全体として 1000 ppm を確保」しても、 個々の部屋となると問題が出ます。

注3 - CO2 の管理基準

アメリカの ASHRAE (American Society of Heating and Air-Conditioning Engineers - 暖房冷凍空調学会) や OSHA (Occupational Safety and Health Administration - 労働安全衛生管理局) など 1000 ppm を閾値にしている規格が多いのですが、 敏感な人だと 600〜1000 ppm で空気の淀みを感じ、 1000〜2500 ppm になると眠け集中力低下が始まります。

2500〜5000 ppm になると健康への影響が顕著になりますが、 5000〜10000 ppm で 8 時間、30000 ppm で 15 分ぐらいは耐えられるようです。

30000〜40000 ppm で呼吸や脈拍数の増加や吐き気の中毒症状が出て、 50000 ppm で視力障害が加わり、 100000 ppm で意識不明から死亡といった調査があるようですが、 換気不足なら、それ以前に酸素欠乏で楽に死ねると思います。

作業中の CO2 増加による死亡事故もよく発生しています。

注4 - 都市部の外気 CO2 濃度

都市部の CO2 汚染の深刻さは私自身も把握していなくて、 50 年ぶりに東京都世田谷区の自宅に戻って新居で暮らし始めてから気づきました。 例えば、リビングに4人が集まったら、 いくらもしないうちに CO2 濃度が 1000 ppm を越え、 寝室で寝たら深夜に CO2 センサの警報で起こされるといった具合です。

そこで、CO2 濃度センサを全居室と屋外に設置し、 連続稼働のサーバーで 10 分間隔で測定。 その結果を見ながら、換気システムを調整していったのですが、 この住宅がある東京都世田谷区の住宅地(小田急線豪徳寺駅近く)だと、 外気 CO2 濃度は 500 ppm 前後が普通で、 無風状態だと 700 ppm に達することがあって驚きます。 こういうときは寝苦しかったり、かなり換気系の調整をしても、 CO2 センサの警報で起こされます。

外気 CO2 濃度変動のうち、 夕方から増加して深夜から翌朝にかけて減少する一日周期の変動は 住民の生活様式として理解できるのですが、季節変動と、 より大きな不規則変動の原因究明には時間がかかりました。

3 年近い測定データの蓄積で、 外気 CO2 濃度の大きな変動と外気の風速に強い相関がある ことに気づいたのです。 外気 CO2 濃度は風が強い日には低下し、無風状態だと非常に高くなります。 季節風の強い冬期だと 400 ppm を僅かに下回ることもあって、 こういう時は爽快です。

つまり、都市全体の気象条件による換気が問題になるわけで、 本来は都市計画の問題ですが、 個々の家屋では当面の現状を受け入れたうえで対策を考えるしかありません。

私が以前暮らしていた長野県塩尻市の住宅地とか、 子供の一人が働く横浜市の海の近くでは 400 ppm 程度す。 小田急線梅ヶ丘駅に隣接するビルの事務所では 500 ppm を切れませんから、 かなり広い事務室でも在席者2人で 1000 ppm を越え、 仕事中眠気に襲われます。

なお、建築法規の前提である、 大気 CO2 濃度 350 ppm というのは地球全体で見ると 1988 年頃の値で、 現時点では 410 ppm 程度にまで上昇しています。

注5 - 私自身の現状

今のところ、原則としてエアコンを常時稼働で運転し、 仕事に使う部屋の排気ダクトの一部のみ電動シャッタを設置して、 照明系統のリモコンで ON/OFF できるようにしてあります。

電動シャッタの ON/OFF は連続稼働のサーバーに任せることにして、 仕事部屋の CO2 濃度が 800 ppm を越えたとき電動シャッタを開いて、 換気量を増やすといった使いかたをしています。

エアコンと熱交換器にコンピュータインタフェースがあると良いのですが、 日本の住宅では自動化や省エネルギを徹底する発想がないようで、 現時点では適当な製品がありません。

ビル業界では最低限のインタフェースを用意していますから、 いずれは海外から日本にも広がってくると思います。 量産すれば極めて安く作れますから。

平林 浩一, 2017-10-05