高断熱高気密住宅の難しさ (2)

高気密住宅の場合は、 熱交換ユニットが対応する CO2 汚染以外に

など、局所換気を必要とする場所があって、 特に難しいのがレンジフードです。

1. レンジフード

キッチンの熱源にガスレンジを選んだのが、苦労の始まりでした。 レンジで必要になる高気密住宅だと、 ガスコンロで必要になる排気量の確保が困難なのです。

13 A の都市ガスを使うガスコンロの都市ガス(13A)発熱量は 4.12 kW x 2、1.27 kW x 1 と 2.52 kW のグリルで、 全点火時には 11.2 kW になります。 (注1)

都市ガスを燃焼させたときの CO2 発生量を 0.0907 m^3/h/kW とすれば、 これらから発生する CO2 は

  発熱量(kW)          4.12    1.27   11.2
  CO2 発生量 (m^3/h)  0.374   0.115   1.016
ですから、4/12 kW のガスコンロ 1 台を使うだけで、 住人が 20 人近く増えたことになります。

キッチンで 1000 ppm を確保しようとすると、 ガスコンロ 1 口でも 600 m^3/hの換気量が必要で、 全部点火すると 1700 m^3/h になりますから、 とうてい家屋自体の換気系の能力では無理で、 局所換気が必要になります。

高気密住宅向けには「同時給排気型」とよばれるレンジフードが使われているのですが、 換気風量は

  風量設定        常時  弱   中   強  ターボ
  換気風量 m^3/h   130  220  300  380  460
から選べますが、この風量だと全部点火した状態で 3000 ppm 程度に押える方針です。

実際に運転してみると、弱はほとんど使いものにならず、 中から強で使うことになります。 ターボになると乱流になって、ほとんど換気量が増えません。 しかも、ガスコンロ3口を同時に使う(グリルは使わない)と、 CO2 濃度がすぐ 1,000 ppm を越えます。

構造を調べて見ると、 同時給排気型といっても排気量と等しい外気量を取り込むわけではなくて、 屋内と屋外の差圧により給気口から外気が入るだけなので、 排気風量の 1/2 程度しか給気されていないのです。

他社はどうなっているのかと調べてみると、 三菱の製品では排気と給気の両方に電動機を使ったものがあります。 ただ、これも給気量は排気量の 1/2 を少し上回る程度になっていて、 残りは家屋の隙間から取り込む設計です。

しかし、最近の高気密住宅では、その隙間がありません。 レンジフードが動くと、家屋全体の気圧は弱で 10 hPa、中で 25 hPa、 強で 34 hPa、ターボで 46 hPa 低下しますから、 玄関のドアを開けるのに、かなりの力が要ります。

レンジフードの風量を実測してみると、 P-Q (静圧-風量)線図の動作点は次ぎのようになっていました。

1図 高気密住宅に於ける同時給排気型レンジフードの動作点

メーカーが想定した動作とはまったく違っていて、 かろうじて動いている状態ですから、 メーカーのカタログには 「排気に必要な空気を取り入れながら換気する高機能レンジフード。 高気密住宅にもおすすめです。」と書いてあっても、 高気密住宅はまったく考慮されていないことがわかります。

さらに、この問題は換気風量以外にもあります。 同時給排気ユニットから給気された外気が屋外に出てゆかないのです。 理由は同時給排気ユニットの給気吹き出し口が天井近くにあって、 レンジフードの前方はるか遠くに吹き出してしまうのです。 「不足する空気を『どこでも良いから』屋内に入れればよいだろう」という発想ですが、 これだと家屋の換気系のフィルタを無効化してしまいます。 せっかくの花粉、埃、PM2.5 対策が台無し。

この家屋の場合は 同時給排気ユニットの給気吹き出し口の先にガス乾燥機の空気吸入口があって、 運転時には同時給排気ユニットが屋外から取り込んだ空気を洗濯が終った衣類で 濾過して再び屋外に戻すことになりますから、 乾燥が終った衣類を取り出すと悲惨な目にあいます。 わざわざ花粉を衣類に多量に付着させる仕組みですから、 社会貢献になるかもしれませんが、住人には地獄です。

どう考えても、取り込んだ外気はガスコンロ周辺から出して、 燃焼ガスと一緒に排気すべきですが、 日本のレンジシステムには、 そういった配慮がありません。 (注2)

2. ガス乾燥機

洗濯物の乾燥については、この住宅だと屋内干しでも対応できるのですが、 能率と仕上りの良さではガス乾燥機がずば抜けていて、 洗濯機と同時並行で運転すると、極めて能率がよくなります。 全自動洗濯乾燥機のように1晩がかりといったことにはなりません。

ただ、これもガス乾燥に必要な空気は屋内の空気を使う設計で、 換気風量は実測で 100 m^3/h 程度になりますから 建物に隙間がなくて、外気供給の少ない、 高気密住宅では苦しくなります。

Rinnnai RDT-52S の P-Q 線図だと一応想定内の風量で、 100 m^3/h だと静圧 450 Pa 程度ですから、 これも稼働時は玄関のドアを開けるのに力が要ります。

3. バス換気扇

換気系以外の排気としては、以上に加えてバスの換気扇 (MITSUBISHI VD-10ZUC-IN))がって、 実測風量は下図のようになります。

2図 バス換気扇の動作点

はユニットバスの引き戸全閉、 は全開の値です。 これも想定外の負荷ですが、大きな問題にはならないようです。

屋内の相対湿度は年間をとおして 50 % 程度に維持されていますので、 風呂を使った後も 1 時間も換気扇を回せば相対湿度は 50 % 程度に下がります。

こうして見ると、 今の住宅機器は最近の高気密住宅に対する考慮がなくて、 対応できていないことがわかります。 特に、換気システムとレンジフードは何とかしてほしいです。

注1 - ガスコンロによる CO2 発生量

ここで使われているのは、 ガスコンロが「クリナップ ZGGCK7RA14xxS」、 レンジフードが「クリナップ ZRS75ABF12M(S/W)Z」です。

東京ガスのデータで、家庭で使われる都市ガス 13A の発熱量は 45 MJ/m^3、 CO2 発生量は 2.21 kg/m^3。 CO2 の密度は 1.977 kg/m^3, 0℃, 101.325 kPa) ですから、 20℃ 1 気圧なら 1.842 kg/m^3 を使って、 0.096 m^3/kW/h です。

実際に測定した事例 調理用ガス器具から発生する有害物質の発生量 (産衛誌 2013;55(2):59-61) では都市ガス(13A)用ガスレンジ Rinnnai KGS-10BA で 0.0907 m^3/h があります。

この量だと CO2 許容濃度を 5000 ppm にしたとしても 20 m^3/h を超える換気が必要ですが、 従来無視されていた NO2 の暴露のほうが危険で、 CO2 基準より、 まだ日本には許容濃度基準がない NO2 基準のほうがよいという主張です。

注2 - レンジフードの工夫

海外で探すと、コンロ周辺から外気を入れるシステムもあるようです。 また、ガスをあきらめて電磁調理器にすれば、 フィルタで油と埃を除去して屋内空気を循環して使うシステムもありますから、 高気密住宅ではガスを避けるべきかもしれません。

それにしても、とりあえず少しでも改善したいので、 レンジフードの周囲を防炎レースカーテンで囲んで、 取り込んで外気が遠くに飛ばないようにしてみました。 これでも、多少はよくなります。

また、多分気密性の」高さを重視した選択だと思いますが、 この家屋の場合は、レンジが壁際にあって、 その横にドレーキップ窓があって、 多量の換気が必要な場合は、 内倒しに開けると、かなり改善されます。

平林 浩一, 2017-02-03