納税側から見た減価償却

減価償却の問題を、納税側の観点から、もう少し調べてみましょう。 awk 等の簡単なプログラミング言語で、実際に計算しながら読んでください。

減価償却資産には、地方税としての「固定資産税」課税があり、 毎年 1 月 1 日の残存価額の 1.4 % 程度(最大 2.1 %)がその年の税額になりますから、 このルールが途中で変更されない限り、 償却までの毎年の残存価額の合計額に税率を掛けたものが、 使用期間に払う税金の総額になります。

償却資産 1 円あたり、つまり、償却資産価額で規格化した 残存価額の合計額を S とすると、計算そのものは高校数学の前半(注 1)でまにあって、 下記のようになります。

  定率法のとき

  S = 0.9 * r / (1 - r)                                        (1)
  ここに
	r = exp(log(0.1)/n)
	n = 耐用年数

  定額法のとき

  S = (1.1 * n - 0.9) / 2                                      (2)
(1) 式を計算してみると、わかりますが、これは、
  S = 0.389 * n - 0.407
  (2 年から 30 年までの値から最小自乗法で求めた係数)
といった 1 次式に極めて近いのです。(注 2)

(2) 式も同様に

  S = 0.55 * n
に非常に近いですから、固定資産税については、 定額法は定率法の約 1.4 倍の税負担 になることがわかります。

1998 年に、日本の税法では、それまでは長年にわたって認められてきた、 建物の定率法による減価償却を認めないことにしましたが、 その理由がここにあります。 ほとんどの人が知らないうちに、 40 % の増税が実施できたわけで、 人民は高校数学も知らないのが一番です。

大蔵省の標語は「増税は勝ち、減税は負け」だそうですが、 さすがに国民の息の根まで止めると、ヤバイと思うようで、 「近いうちにもっと払ってくれるなら、減税」というのがあって、 租税特別措置法では、 「7 % の税額控除か 30 % の特別償却のいずれかを選択」というのがあります。 30 % の特別償却(最近は、もっと少なくなってきつつある)を法人税から見ると、 単なる納税の繰り延べで、長期的なメリットはありませんが、 固定資産税は減りますから、 固定資産税がどの程度減るかを調べれば、選択のメドがつきます。

定率法で初年度 30 % を特別償却すると、(1) 式は次のように変わります、

  S = 0.9 * r / (1 - r) - 0.3 * 0.9 / (1 - r)                  (3)
(1) 式と比べれば、(3) 式の第2項に税率を掛けたものが固定資産税の減税額ですから、 標準税率で計算すれば、
  0.3 * 0.9 / (1 - r) * 0.014
が固定資産税の減税率です。

計算してみると、 この値が 7 % を越えるのは、耐用年数が 42 年以上の場合ですから、 事実上ほとんどのケースで、 「7 % 税額控除」を選ぶほうが有利です。

注 1 - 数学無用論

文化人がよく「数学は役にたたないから要らない」と言う主張をしますが、 無用なのは数学だけではないようで、 私の子供が通った、「君が世」死守の公立高校の校長さんは 「物理は役にたたない無用の学問」と言って、 物理コースを止めてしまいました。 今の官僚国家が理系無用論になるのは無理ないと思います。 多分、文化は学問の感動に無縁なのでしょう。

注 2 - 1 次式で近似できる理由

(1) 式が直線 (S = a * n + b) に近いのは不思議ですが、 理由は次のとおりです。exp(x) の Taylor 展開

  exp(x) = 1 + x + x^2/2! + x^3/3! + ..
を考慮すれば、
  1 / r = 1 / exp(log(0.1) / n)
    = exp(-log(0.1) / n)
   = 1 - log(0.1) / n + ..
と近似できますから、
  S = 0.9 * r / (1 - r)
    = 0.9 / (1 / r - 1)
    = 0.9 / (-log(0.1)) * n
    = 0.39 * n

平林浩一, (C) 1998