何故、アナログ・オーディオの伝送ケーブルで特性インピーダンスを考慮しないのか

高周波の(信号/情報)伝送回路では、

  1. 受信波形の歪
  2. 伝送エネルギの損失
を減らすために、 「インピーダンス・マッチング」(Impedance Matching) の概念が不可欠ですから、 ケーブルに要求される特性として最も重要なのが 特性インピーダンス (Characteristic Impedance) (注1)になります。

当然、(Ethernet)LAN, USB, IEEE1394, SCSI といった、 高速のデータ通信を必要とする規格では、 インピーダンスマッチングの品質を確保するために、

を規定していますし、 オーディオでも、 デジタル・オーディオの場合(注2)は、 これらの要求が欠かせません。

ところが、アナログ・オーディオなど、低周波の信号伝送路の場合は、 インピーダンス・マッチングを考えることがないのです。

何故、アナログ・オーディオで使われるケーブルだと、 特性インピーダンスを考えなくて済むのでしょうか

これが今回の問題です。

注1 - ケーブルの特性インピーダンス

電気工学のインピーダンスは電圧と電流の比(電圧/電流)ですが、 電磁波の伝送線路の場合は進行波や反射波が複数存在するため、 単一の進行波(反射波)に対する(電圧/電流)の値を特性インピーダンスと呼んでいます。 すべての電磁波をまとめてインピーダンスを考ようとすると、 状況によって変わってしまうため、 周波数と方向の違うものは別々に考えざるをえないのです。

物理的実態としては電圧が電界、電流が磁界になりますので、 空間を伝わる電磁波を考えるときは、 (電界/磁界)の値がインピーダンスになって、 真空中では

  Z0 = sqrt(μ0 / ε0)
     = 4 * π * c * 1e-7
     = 376.7... Ω
  ここに、
	Z0 = 電波インピーダンス (Ω)
	μ0 = 真空の透磁率 (H/m)
	ε0 = 真空の誘電率 (F/m)
	c = 真空中の光速度 (299 792 458 m/s) .. 定義値
となります。

(特性)インピーダンスは電磁界のエネルギに占める、 電界のエネルギと磁界のエネルギの割合を表す指標であることに注意してください。 インピーダンスの記号に Z を使うのは、 この概念を発明した電気工学の偉人 Oliver Heaviside が Z を選んだためです。

不平衡の同軸ケーブルは 50 Ωと 75 Ωが一般的です。 ケーブルの減衰は導体抵抗に比例し、特性インピーダンスに反比例しますが、 外径を変えずに特性インピーダンスを大きくすると 内部導体が細くなって導体抵抗が増え、 導体抵抗を増やそうとして内部導体を太くすると 特性インピーダンスが低下しますから、 減衰が最小になる特性インピーダンスがあって、 内部導体と外部導体の導電率が同じなら、 最適インピーダンスは ポリエチレン絶縁で約 50 Ω、空気絶縁で約 75 Ωです。 現代の最先端の高周波機器では 50 Ωが標準ですが、 映像機器とか音響機器では、歴史的事情で、 はるか昔の空気絶縁時代 75 Ωが引き継がれてしまいました。

平衡ケーブルの場合は、90 Ω、100 Ω、110 Ωが一般的ですが、 これは往復 2 導体の平行線の特性インピーダンスが この程度になるというのが理由です。 外部にシールドが存在すると特性インピーダンスが低下しますので、 シールドを要求する規格では低い値を選択するのが普通です。

特性インピーダンスを規定する方法としては、 素直に特性インピーダンスの許容範囲を規定する方法と、 リターンロス(Return Loss)で間接的に規定する方法の 2 つがあります。

注2 - デジタルオーディオのケーブル規格

例えば、AES, EBU, ITU-T などのデジタルオーディオ規格では、 110 Ωの平衡ケーブルとか、75 Ωの同軸ケーブルを規定しています。

平林 浩一, (C) 2011