UL 2556 風速計算式の謎

ケーブルの難燃性を評価するための試験法はたくさんありますが、UL 2556 9.6 の Vertical tray flame test (method 1 - Vertical tray and Method 2 - FT4) もその1つで、 内容積 2440Wx2440Dx3350H という燃焼室内にケーブルトレイ(電線を固定する梯子)を 垂直に設置し、ケーブル試料を 1 列に並べて結束してから、 トレイの下部に設置した大型のプロパンバーナーで 20 分間ケーブル下部を燃した後、 試料がどこまで燃えたかといったことを調べます。

これはどこかの階で発生した火災がケーブルトレイに設置されたケーブルを伝わって 直上階に伝わるかどうかの評価を行うもので、試験中の酸素供給量を管理するために、 換気量を、0.65 m^3/s と規定しています。(注1)

その結果として、排気量の測定が必要になるわけですが、UL 2556 Annex H を見ると、 ちょっと変わった「差圧流量計」 (注2) で排気ダクト内の風速を測定する仕組みになっていて、 その風速を次式で求めるよう規定しています。

  V = 0.806 * ΔP * Tk
  ここに、
	V = 風速 (m/s)
	ΔP = センサの差圧 (mmHg)
	Tk = 測定空気の温度 (K)

しかし、多少の工学的センスか常識があれば、この式には違和感が残るわけで、 気になって、UL Japan の技術部門に、この式の根拠を聞いてみたところ、 「流速が(差圧x温度)に比例するのは正しい」 という解答でした。担当エンジニアに加えて、 上級エンジニアの判断でも正しいそうです。 つまり、UL の正式解答。

はたして、UL 規格や UL Japan が差圧型流量計で 「流速が(差圧x温度)に比例する」と 主張するのは、正しいのでしょうか?

これが今回の問題です。

注1 - 流量規定値の誤差

この規格では、流量公差についても、大きな矛盾があります。

注2 - 差圧流量計

差圧流量計は最も基本的な流量測定手段の1つで、 エネルギ保存則の一種であるベルヌーイの定理を基盤に、 ダクト内の一部に流れを妨げる障害物を置き、 その前後の差圧から流速を求めます。 差圧を発生させる方法はいろいろあって、 一般的にはオリフィスが使われますが、 この規格では、下図のような中央を板で塞いだ短い円筒を使っています。 つまり、空気の流れを邪魔する円盤を置いて、 その前後の空圧を調べるために、 円盤の前後に円筒を追加したという構造を 16 in 径のダクト内部中央に置いています。

平林 浩一, (C) 2011