注5 - (6), (7) 式の根拠

塑性疲労による断線は曲率最大の場所で生じますから、 試料が 90 度曲げられたときの、曲率の最大値を求めればよいわけですが、 試料がピアノ線のような弾性体で近似できる場合を考えます。

この場合、機械工学の材料力学や土木工学の構造力学たわみを使った近似が使えませんから、 微分幾何学の自然方程式を使うことになりますが、 この問題については曲率を直接扱うため、 デカルト座標を使うより簡単になります。


  O = 固定ガイド端(試料可動部の始端)
  s = O を原点とした試料中心軸の弧の長さ
  a = 試料試料中心軸の P に於ける接線と垂直軸の角度 (0 <= a <= π/2)
  R = 試料試料中心軸の P に於ける曲率半径
  V = 試料試料中心軸の P に於ける剪断力
  T = 試料試料中心軸の P に於ける張力
  W = O から十分離れた場所に加えた下向き加重
1図 定加重折曲疲労試験のモデル

1図のように、固定ガイド端を O として、O から水平に保持された試料に、 O から十分離れた場所に試料中心と直行する方向の加重 W を加えた状態を考えると、 試料に加わる剪断力は、

  V = W * sin(a)                                               (1)
  sin(a) = dx / ds                                             (2)

一方、試料の曲げ剛性、せん断力、曲げモーメントの基本的関係は、

  (d/ds)(M) = V                                                (3)
  1 / R  = M / B                                               (4)
  ここに、
	M = 曲げモーメント
	V = せん断力
	B = 曲げ剛性
	R = 曲率半径
(4) 式の両辺を s で微分して (1) 式を代入すれば、
  (d/ds)(1/R) = (d/ds)(M) / B
              = V / B
              = W / B * sin(a)                                  (5)
ここで、a の微分 da と s の微分 ds の関係
  ds = R * da                                                 (6)
を (5) 式に代入すると、a についてのシンプルな微分方程式に変換できて、
  (d/da)(1 / R^2) = W / B * sin(a)                              (7)
a で積分して、
                       t
  1 / R^2 = (W / B) * ∫sin(a)*da
                      0
          = (W / B) * (1 - cos(t))  (0 <= t <= π/2)            (8)

曲率半径の最小値は t = π/2、すなわち、試料と保持具の接点で、

  1 / R^2 = W / B                                               (9)
となります。

破断繰返数は最小曲率半径の自乗に反比例しますから、 定加重折曲げ疲労試験に於いては 破断繰返数は加重に反比例することがわかります。

なお、折曲げ角度が +-90 度より小さい場合も、 (8) 式の t が折曲げ角度になりますから、 この定性的関係は変わりません。

平林 浩一, 2012-06-21