ワイヤ・ケーブルの電流容量 Ampacity

1. 基本的な考え方

ワイヤ・ケーブルの導体に電流が流れると、ジュール熱が発生し、 それが絶縁体に伝わり、そこから外部空間に放熱(熱伝達)されますが、 この発熱、熱伝導、熱伝達のバランスで、絶縁体の温度が決まります。

一方、絶縁体には熱劣化による寿命の限界があって、 その寿命は温度が高くなるほど短くなりますが、 絶縁材料の多くは 8 - 10 度 (C)の温度上昇で、 寿命が 1/2 になることが知られていて、 通常、2,000 - 20,000 時間連続使用できる温度をその絶縁材料の定格温度とします。

つまり、絶縁体の温度がその材料の定格温度を越えない最大の電流を求めるのが 「許容電流」ないし「電流容量」(ampacity)の問題になるのですが、 導体発熱は下記のように簡単に計算できます。

  U = I^2 * R                                         (1)

  ここに、U = 単位長さあたりの導体発熱量 (W/m)
          I = 電流 (A)
          R = 導体抵抗 (Ohm/m)

熱伝導の計算もFourier's lawに基づいた 比較的簡単な偏微分方程式で扱えます。

ところが、放熱、つまり、熱伝達の計算が簡単ではないのです。 熱伝達については、1907 年に Isaac Newton が作った対流熱伝達の式、 Newton's law of cooling

  q = h*S*(Ts - T0)                                   (2)
  ここに
	q = 熱流量 (W/m^2)
	h = 熱伝達率 (W/m^2/K)
	S = 放熱物体の表面積 (m^2)
	Ts = 放熱物体の表面温度 (K)
	T0 = 周囲温度 (K)
で考えるのが普通ですが、熱伝達率(heat transfer coefficient) h は、 放熱物体の形状、 周囲の気体の流れかたによってまるで変わってきますから、 極端な話し、強制冷却すれば許容電流もどんどん大きくなるわけで、 電流容量は電線の構造だけで決まるわけでなく、 どう使うかという使用条件に大きく依存します。

しかも、 使用条件の鍵となる熱伝達は空気の対流という流体力学の難しい問題になりますから、 計算そのものが面倒だったり極めて困難で、 その難しさは熱伝導とか流体力学の専門書を見ていただくとわかるのですが、 末尾にこの問題の基本となる水平円柱のケースを要約しておきます。

そのため、通常のアプローチとしては、 計算と実験の結果を典型的な条件についてまとめた上で、 実際の設計敷設段階では、 さらに政策的安全率を掛けるという工学的発想に落ち着くのが普通で、 例えば、次のような目安がよく使われます。

2. 長時間定格

長時間連続して通電する場合は発熱と放熱が平衡状態に達したときの導体温度が問題 になりますが、下記の値は、周囲温度 30 度(C)、最終温度 100 度(C)を前提にした、 銅導体の最大電流の目安として使われているものの1つで、 許容電流を決めるときは、これに安全率 100 % を適用するのが普通です。 つまり、この値の 1/2 を電流容量と考えることになります。

AWG サイズ AWG Size自由空間中の単線(A)狭い空間で束ねたとき(A)
695 55
862 39
1050 31
1240 23
1432 17
1622 13
1816 10
2011 7.5
22 7 5
24 3.5 2.1
26 2.2 1.5
28 1.4 0.8
30 0.8 0.5
33 0.5 0.3

周囲温度が違う場合は、下記の補正がよく使われます。(注1)

  I = Ir * sqrt((Tc - T) / (Tc - Tr))                 (3)

  ここに
	I = 周囲温度 T に於ける許容電流 (A)
	Ir = 周囲温度 Tr に於ける許容電流 (A)
	Tc = 絶縁体の温度定格 (C)

周囲温度が同じで絶縁体の温度定格が違う場合も、 同じ手法で下記のように換算することができます。

  I = Ir * sqrt((Tc - T) / (Tr - T))                   (4)

  ここに
	I = 絶縁体の温度定格 Tc に対する許容電流 (A)
	Ir = 絶縁体の温度定格 Tr に於ける許容電流 (A)
	T = 周囲温度 (C)

長時間定格としての許容電流の目安を得るモデルとしては、 他にもいろいろあって、 例えば、 絶縁体の温度が周囲温度にたいして 30 C 上昇する電流を許容電流と考えるときの 目安として、 下記の方法もよく使われます。

  I = k2 * k1 * I1                                    (5)
  I1 = 15.0 * S ^ 0.588                               (6)
  k1 = n ^ -0.333                                     (7)
  k2 = sqrt(Td / 30)                                  (8)
  ここに
	I = ワイヤを n 本束ねたときの電流容量 (A)
	k1 = ワイヤを n 本束ねたときの電流容量減少率
	k2 = 絶縁体の温度定格と周囲温度の差が 30 C 以外の補正係数
	I1 = ワイヤを単独使用するときの電流容量 (A)
	S = 導体断面積 (mm^2)
これはいろいろな実験結果をまとめた実験式ですが、 水平円柱、垂直円柱、傾斜円柱に対する自然対流熱伝達は古くから研究されていて、 例えば、McAdams 等の式(注2)を使うと、(6) 式の根拠を説明することができます。

ワイヤを束ねたときの電流容量減少率というのは、 内部のワイヤと周囲のワイヤの熱伝導による温度差を考慮したもので、 (8) 式は (3) 式と同じものです。

以上、いずれの場合も、空気の自然対流を前提にしていることに注意してください。 強制対流の場合は、もっと大きな電流を流すことができます。

3. 短時間定格

モータの起動電流のように短時間大きな電流が流れる場合は、 発熱と放熱の過渡状態を考えなければなりません。 電流が流れ始めると、 導体温度は周囲温度から出発して定常状態に達するまで上昇してゆきますが、 絶縁体が許す温度に達するまでの時間がどれだけあるかを評価して、 その時間までは通電可能と判断するのが普通で、 時間が短いほど大きな電流が流せることになります。

この評価の目安としては、次の式が使い易いと思います。

  I = exp(-0.21*S + 8.5)/sqrt(T)                              (9)
  ここに
	I = 電流 (A)
	S = 導体サイズ (AWG)
	T = 時間 (s)
これはハーネスにまとめたワイヤの導体が、 周囲温度 57.2 C から 105 C に達するまでの電流、 時間、導体サイズの実験データから求めた実験式で、 100 秒から 1000 秒程度まで成立します。

つまり、1000 秒を越える通電であれば、連続定格を考えれば良いことになります。 短時間定格を決める実験式で、 電流が通電時間の平方根に比例するのは発熱が電流の自乗に比例するためですが、 物理的なモデルとしては断熱状態の発熱を考えるとわかりやすいと思います。

4. 実測と計算

より精密な値を必要とする場合は、熱伝導と熱伝達を数値解法で計算したり、 実測することになりますが、実際、数多くの計算と測定が行われてきました。 熱伝達は複雑な流体力学の問題になりますから、かなり面倒な仕事になります。

実務的には、絶縁物の温度が一番高いのは導体に接している部分で、 しかも、導体の熱伝導率は非常に高いですから、 導体断面の温度分布は一様と考えてさしつかえなく、導体抵抗の温度特性を利用して、 導体抵抗の測定値から導体温度を推定するのが簡単で、例えば、銅導体でしたら、 次の関係を使います。(注3)

  T = (R/r)*(234.5 + t) - 234.5                              (10)

  ここに、
	t = 電流を流す前の温度 (C)
	T = 電流を流したときの温度 (C)
	r = 電流を流す前の抵抗 (Ohm)
	R = 電流を流したときの抵抗 (Ohm)

5. 標準化の例

規格や法律としての標準化はいろいろあって、そのいくつかをあげておきますが、 この他にも、用途によっていろいろな規格や規制値や論文、レポートがあります。

Size, AWGNational Electrical CodeUnderwriters' LaboratoryAmerican Insurance AssociationMIL-W-5088
銅導体アルミ導体
+60C+80C単線束線単線束線
30...0.20.4................
28...0.40.6................
26...0.61.0................
24...1.01.6................
22...1.62.5...95......
20...2.54.03117.5......
1864.06.051610......
16106.010.072213......
142010.016.0153217......
123016.026.0204123......
1035........255533......
850........3573465836
670........50101608651
490........701358010864
2125........9018110014982
1150........100211125177105
0200........125245150204125
00225........150183175237146
000275........175328200......
0000325........225380225......

5. 注

4.1. 注1 - 周囲温度と絶縁体の温度定格の換算

(2) 式は熱伝達率が一定という、かなりラフな近似を使うと、 簡単に計算できます。

まず、ニュートンの冷却則 (2) を受け入れることにすれば、導体の発熱量

  q = I^2 * R                                       (4a)
  ここに
	q = 発熱量
	I = 電流
	R = 導体抵抗
と前記の (2) 式の放熱量が平衡するわけですから、

  I^2*R = h*S*(Ts - T0)                              (4b)
周囲温度 T と Ts に大きな差がなくて、 熱伝達率 h と導体抵抗 R と電線の表面積 S が等しいと見倣せる場合は、

  I1^2*R = h*S*(Ts - T1)
  I2^2*R = h*S*(Ts - T2)
の両辺をそれぞれ割って、

  I1/I2 = sqrt((Ts - T1)/(Ts - T2)                    (4c)
これが (3) 式になります。

4.2. 注2 - 水平円柱の自然対流熱伝達率とワイヤの電流容量

水平円柱からの自然対流については、 McAdams (1) が気体、水、油その他を含む多くの実験結果を整理して得た結果と、 Elenbass (2) 、Collins と Williams (3) の得た結果をまとめると、 下記のようになります。

  N = h*d/r								(1)
  G = d^3*g*b(Tw - T0)/v^2						(2)
  ここに
	N = 管直径 d を用いた平均ヌセルト数 (Nusselt nimber)
	h = 平均熱伝達率 (heat transfer coefficient)
	d = 平均直径
	G = 管直径 d を用いた平均グラスホフ数 (Grashof number)
	g = 重力加速度
	b = 流体の体膨張係数
	Tw = 壁温度
	T0 = 流体温度
	v = 動粘性係数
	P = プラントル数 (Prandtl number)
  として

  N = 0.53*(G*P)^0.25		(1e3 < P < 1e8, MacAdams)		(3)
  235*N^3*exp(-6/N) = G*P	(G*P < 1e3, Elenbass)			(4)
  N = 1/(0.88 - 0.43*log10(G)	(1e-10 < G*P < 1e-2, Collis & Williams)	(5)
物性値はすべて、 膜温度(流体温度 T0 と壁温度 Tw の算術平均)における値を使うのですが、 1e3 < G*P < 1e8 の範囲では、 高さ π*d/2 の垂直平板の平均熱伝達率にほぼ等しいことになって、 直径が大きくなれば、 円周全体の平均熱伝達が垂直平板と似た傾向になるだろう という自明な予想を裏付けます。

G*P < 1e3 以下の領域では、境界層が円柱の大きさに比べて厚くなりますから、 表面曲率の影響が無視できなくなりますが、 Elenbass が針金のまわりに有限の厚さの薄膜を生じ、 その膜を通して熱が伝わるというモデルで、(4) 式を導きました。 この結果は G*P < 1e3 の領域で McAdams の結果とよく合います。

G*P がさらに小さい 1e-10 < G < 1e-2 の領域では、 Collis と Williams が空気を用いた実験を行い、 (5) 式のように整理しました。

坪内(4)が空気を使って行った実験結果

  N = 0.74*(G*P)^(1/15)            (1e-8 < G*P < 1e-2)
も Collis らの結果とよく一致します。

水平に対して軸が角度 a だけ傾いた円柱については、 平均ヌセルト数 N とグラスホフ数 G に含まれる直径 d を、 垂直方向断面の長径 d/cos(a) で置き換えれば近似式が得られそうですが、 実際 a が 45 度までは正しく、 80 度近くなってもかなり正しい値が得られることがわかっています。 つまり、放熱に関しては水平方向が最悪条件になります。

また、円柱が垂直の場合は、直径が余り小さくなければ垂直平板の結果が使えますし、 直径が小さい場合は、Kyte (5) による実験結果があります。

以上の結果がわかると、 あとは導体の表面温度と空気との温度差に比べて絶縁体表面温度と導体表面温度が近い こと(簡単に証明できます)を利用して、 絶縁体表面温度が特定の値になるような導体電流を計算することで、 (6) 式に近い値が得られます。

 (1) W.H.McAdams,- Heat Transmission, 3rd ed., 176
	(McGraw-Hill, 1954)
 (2) W.Elenbass,- J.Appl.Phys., 19, 1148 (1948)
 (3) D.C.Collis and M.J.Williams,- A.R.L.Aero. note 140 (1954)
 (4) 坪内為雄,- 日本機械学会論文集, 25, 759 (昭和 34)
 (5) J.R.Kyte, A.J.Madden and E.L.Priet,- Chem.Emg.Progr., 49, 653 (1953)

4.3. 注3 - 銅の電気抵抗の温度依存性

金属や合金の電気抵抗は極低温で T^5 (T は絶対温度) に比例して増加し、 それより高い温度では T に比例して増加するのが普通ですが、 これは、金属の格子振動(フォノン散乱)による抵抗が T に比例するためです。 銅の電気抵抗は、極低温より高い温度で、T - 38.65 に比例して増加します。

平林浩一, 1999/02, 2001/05