SMPTE 規格とケーブルの使用可能な最大長

ベースバンドのデジタル伝送を行うケーブルが長くなるにつれて、

  1. ケーブルの減衰によるパスル波形の振幅が減少し
  2. ケーブルの位相歪みによるパルス波形の立上り時間が増加する
ため、いずれは受信器でデジタル信号を識別できなくなりますが、 SMPTE 規格を例に、使用できるケーブルの最大長を予測する方法を考えます。

1. ケーブルの基本的な特性

金属導体を使ったすべての高周波ケーブルで、

  1. 減衰が周波数の平方根に比例して増加する
  2. 位相歪みは減衰と等しい
ことが証明でき、このいずれもが導体の表皮効果に起因します。

つまり、高周波領域の 1 つの周波数に於ける減衰量だけで、 ケーブルの影響が決ります。

2. SMPTE 規格

2.1. ケーブルの特性

SMPTE の Coaxial Cable Interface ではケーブルの特性を下記2項目で規定して います。

最初の規定は受信器のケーブルイコライザ(automatic cable equalizer)が正常に 機能するために必要な条件ですが、前記のように同軸ケーブルでは必然的に こうなります。

2つめの規定はケーブルの特性インピーダンスの精度を規定することになります。

2.2. 受信器の特性

ケーブルに許される減衰の最大値を決める SMPTE の受信器特性は いささか曖昧です。

SMPTE 259143/270/360 Mb/s Typical loss amounts may be in the range of 20 dB to 30 dB at one-half clock frequency with appropriate receiver equalization. Receiver design to work with lesser signal attenuation are acceptable, but are not recommended for new designs.
SMPTE 2921.5 Gb/sReceivers operating with input cable losses in the range of up to 20 dB at one-half the clock frequency are nominal; however, receivers designed to work with greater or lesser signal attenuation are acceptable.
SMPTE 424M3 Gb/sThe receiver operating with input cable losses in the range up to 20 dB at half-the clock frequency are typical; however, receivers designed to work with greater or less signal attenuation are acceptable.

クロック周波数の 1/2 で減衰を規定したのは、 デジタル信号のスペクトルの基本波の周波数がクロック周波数の 1/2 になるためですが、まず、 SMPTE 259 ではケーブルの減衰量を 20 dB から 30 dB でも動作することを原則と しながら、 もっと減衰量の少ないケーブルでないと動作しない受信器も認めていますから、 結局のところ、使用可能なケーブル長は受信器の仕様に依存することになります。

減衰量の小さいケーブルでないと動かない受信器は過去の設計を想定したものですが、 この時代だと、30 dB を越える減衰でも動作する受信器は想定外でした。

しかし、SMPTE 292, SMPTE 424M になると、標準的な減衰量を 20 dB と想定しながら、 それより悪いものも、良いものも受け入れることになります。

この曖昧さの起源はケーブルイコライザ技術の進歩に あります。

受信器の入力端に周波数の平方根に比例して増幅度が大きくなる回路を追加すれば、 ケーブルの減衰歪みと位相歪みをキャンセルすることができるというのが ケーブルイコライザのアイデアですが、昔は、 広い周波数帯域でこういった特性を持つ回路を実現するのは困難でした。 しかし、LSI の進歩により、こういった回路を実現し、 しかも、減衰波形からケーブルの長さを逆算して、補償量を自動的に調節するような LSI が実現したおかげで、本来のケーブルの長さの限界を遥かに越える受信器や 等価器が実現できるようになったのです。

現在、こういった製品を Gennum, National Semiconductor, Maxim など、 多くの半導体メーカーが販売していますが、 例えば、Gennum GS2994 の場合は、 100 MHz の減衰が 6.0 dB/100m の RG-6/U 同軸ケーブルで 2.97Gb/s の SMPTE 信号を 200m 伝送可能となっていて、 これはケーブル本来の限界である 65 m 程度の 3 倍近い値です。

3. ケーブル長限界値の目安

かくて、SMPTE 規格に基づいた機器間のケーブル長限界値は、 伝送速度(Clock Rate)とケーブルの特性だけでは決まらなくて、 受信器の仕様やイコライザの特性で決まることになりますが、 とりあえずは、

  伝送速度(Clock Rate)の 1/2 の周波数に於けるケーブルの減衰量が 20 dB になる長さ
が目安にはなります。

ただ、これでも動作しない機器や、 この 3 倍でも動作する機器があることを忘れてはなりません。

また、 伝送速度(Clock Rate)の 1/2 に於けるケーブルの単位長あたり減衰量が不明でも、 ケーブルの減衰は周波数の平方根に比例しますから、 どこか 1 つの周波数における減衰がわかれば、 容易に計算できることを忘れないでください。