(モガミ電線株式会社 代表取締役/取締役)退任のご挨拶

1965 年、電線下請の事業経営に失敗した父とその友人の家族、それぞれ 4 人の生計 維持を引き受けざるを得なくなって、まだ学業半ばだった妻と学業を終えたばかりの 私が東京から父の故郷、塩尻に転居し、当初は数年で地元の人々に任せて東京に戻る つもりが、半生を越える 50 年を塩尻で過ごすことになりました。

「郷に入っては郷に従え」(後半の郷はボスの意味らしい)を受け入れることなく、 合理性、学問、技術、芸術という異質な世界を持ち込んだ私たちは、地元の住人から 「他処ものは出てゆけ」と言われ続けてきましたから、さぞかし迷惑だったと思いま すが、地元で採用し、共に苦労してきた人々を置いてゆくわけにもゆかず、しかも、 いつの間にか、長年おつき合いいただいた海外顧客から「後継者は見付かったか」と、 ご心配いただくようになりました。

私自身は経営が好きというわけではなく、 当初から後継者作りに励んできたつもりなのですが、 「おもしろき こともなき世を おもしろく」(高杉晋作)をやり過ぎたの か、後継者作りに苦労することになって、20 年を越える年月、人材募集、 ヘッドハンティング、 MBO (従業員による引き継ぎ)、M&A (事業譲渡) を試み続けたものの、 なかなかうまうまくゆかず、昨年になって従業員の決断により、 同業者に後を任せることになりましたが、どうなりますか。

長年のご愛顧に心から感謝すると共に、引続き後継者たちへのご支援をお願いします。

私個人としては、 これまで経営者として勉強しなければならないものを勉強してきましたが、 残りの人生では、勉強したいものを勉強する暮らしをしたいと思っています。 若い頃、数学か物理の合間に音楽をやるつもりが、 思いもしなかった経営者になってしまったのですが、 広範な分野の問題を真剣に考えざるをえなかった点では、 悪くない半生だったかもしれません。あるいは、 青春時代に生涯を共にすることとなった伴侶に出会えただけでも、 充分だったような気もします。

最後に、まだご存じないかたに、私が好きな詩の一つをご紹介して、お別れのご挨拶 とさせていただきます。

2015/01/14 平林 浩一 / 平林 小枝子


The Road Not Taken (by Robert Frost)

Two roads diverged in a yellow wood,
And sorry I could not travel both
And be one traveler, long I stood
And looked down one as far as I could
To where it bent in the undergrowth;

Then took the other, as just as fair,
And having perhaps the better claim,
Because it was grassy and wanted wear;
Though as for that the passing there
Had worn them really about the same,

And both that morning equally lay
In leaves no step had trodden black.
Oh, I kept the first for another day!
Yet knowing how way leads on to way,
I doubted if I should ever come back.

I shall be telling this with a sigh
Somewhere ages and ages hence:
Two roads erged in a wood, and I―
I took the one less traveled by,
And that has made all the difference.


秋深き森の中で道は二つに分かれていた
悲しいかな私は一人の旅人
両方の道を歩むわけにもゆかず
しばしたたずみ
一方の道が遠く下生えの陰へと消えてゆくのを
眼のとどく限りかなたまで見渡した

それから私が選んだのはそれとは別の道であった
どちらも同じように美しく見えはしたが
なおその方が良さそうに思えたのである それは
草深くあまり人の行かない道であったためではあるが
いづれにせよ人が通った道であることにはかわりなく

しかもその朝はまだいづれの道も
真新しい落葉に埋もれていた
そう  私ははじめの道をまたの日のために取っておいたのだ!
とはいえ私は疑った
道はまた道へと続いていることを知りつつも
なお再びここに戻りくることがあろうかと

いつの日か私は溜息まじりに語るであろう
いづこにてか長い長い年月を経たあとで

森の中で道が二つに分かれていた
そこで私はあまり人の通っていない方を選んだのであった
そこには全く別な世界があったのだと ―