あまりに製造困難で歩留まりが悪く、売れると困る製品、 できれば止めたい製品の代表が2803,2804ですが、 普通なら製造中止にすべき製品を長年作り続けてきた理由は次ぎのとおりです。
1974/04のアマチュア向け技術雑誌無線と実験で、 秋田大学の金田昭彦氏が 電線によってさえオーディオアンプの音が変わることを指摘し、 その原因の一つが導体の表皮効果にあるのではないか、また、 錫メッキも音を悪くするようだという内容の記事を書きました。 次いで、1975/12に音楽雑誌レコード芸術に、 オーディオ評論家の江川三郎氏が、 スピーカーコードでも音が変わるという実験結果を発表し、 これも導体の表皮効果が関係している可能性があるのではないかと指摘しました。
私が金田・江川予想と呼んでいる、この二つの発言は、下記の点で特異なものです。
表皮効果というのは渦電流の一部ですが、 オーディオ帯域で測定するのは無理でも、 電磁気学的計算は可能で、その結果の正誤も、 いくつかの手法で検証できますから、 渦電流損失の異なる多量の試作品を作って、自分で試聴したり、 多くの人々に二重盲検法による試聴テストに協力していただき、 渦電流に起因する電気特性の音の違い、 特に解像度の違いに重要な役割りを果たしていることを確信しました。
そうなると、 電気計測でわからない僅かな電気特性の違いが人間にわかるかどうかが問題ですが、 逆に、電気特性では似ても似つかないような大きな違いでも、 人間は同じ音源として同定することができますから、 人間の頭脳は電気計測とは違う仕組みで音の認識を行っていると考えるほうが素直です。
多量の実験から明らかになったことは、 オーディオシステムの伝送特性の周波数微分がこの問題に深く関係していることで、そうだとすると、 人間の場合は周波数のごく近くの違いに敏感で、 遠く離れた周波数の比較は苦手ということになって、 電気計測とはまるで性格が違うことになります。
この違いの原因は人間の耳から脳にいたる伝送系が二次元であって、 演算が伝送方向とは直交する面でも行われること、頭脳になると、 さらに三次元の処理になることが関係しているようです。 電気計測系のほうは時間軸という一次元の伝送系ですから、 伝送特性の周波数微分という演算は困難ですが、 レーザー光を使ったレンズとミラーによる光学系演算装置では、 こういった演算がいとも簡単に実現できます。
我々のこういった研究途上で生まれた試作品の一部が 2803, 2804 で、 現時点に於ける我々の到達点の一つです。設計にかなり無理があって、 実用的な製品ではありませんし、歩留まりが極度に悪く、 絶えず生産中止にしたくなりますが、当面は挑戦を続けて行こうと考えています。
なお、Sony を始めとするオーディオメーカーのほとんどと、 電線メーカーは表皮効果を否定し、純度など無数の魔術的要因を持ち込んで、 理工学では理解できない多量のギミック製品を生み出してきました。 ただし、パナソニックのようにギミック製品とは無縁な真面目なメーカーもあります。
平林 浩一, 2012