銅の変色と裸銅線

寺院等の歴史の長い建築物の銅葺屋根でわかるように、 銅(Cu)と銅合金は耐食性が良いのですが、 大気中に於ける磨いた銅表面の酸化は急速で、容易に変色します。 普通、 10 時間で 5 nm 程度の Cu2O 皮膜が生成された後、 その表面だけがさらに酸化が進んで CuO になりますが、 Cu2O に比べて、CuO は色が濃いので、 その結果、干渉色による変色が現れ、 その色と酸化皮膜の間には、下記の関係があります。 酸化皮膜が厚くなるにつれて、波長の長い光が見えてくることに注意してください。

銅表面の色と酸化皮膜の厚さ
銅表面の色酸化皮膜の厚さ(nm)
暗褐色20 〜 35
赤褐色30 〜 40
紫色35 〜 45
青色40 〜 50
緑色60 〜 80
黄色80 〜 100
橙色100 〜 120
赤色110 〜 125

最近の屋外では、H2S や SO2 等、大気中の硫黄(S)の酸化物が増えたため、 Cu2S や CuSO4 を生じて、 ごく短い時間で暗赤褐色に変わりますが、 その後さらに酸化されて、 最終的には緑青(patina) CuSO4・3Cu(OH)2 という、 銅葺屋根固有の色になります。

なお、電線では、あまり問題になりませんが、1000 ℃以上になると、 Cu2O の解離圧が CuO の解離圧を下回るため、 Cu2O だけが生成されるようになります。

屋内に於ける銅の変色は屋外より遅いことが多く、 変色原因のほとんどが、 大気中の水分の凝結に起因します。 特に、巻いた線とか重ねた板の隙間は水分の凝結が起きやすく、 しかも乾きにくいという悪条件になりますので、 そこで溶存酸素の濃淡電池が生まれ、 Cu2O ができます。 素手で触ったときにできる変色も同様の機構です。

空気中の水分の凝結を防ぐには、 相対湿度 70 % 以下の条件で保管するのが有効な対策で、 当社の保管場所も、この条件を満たすように管理されています。

電力や通信分野で、長年裸電線が使われてきているのを見ても、 その信頼性がよくわかりますが、 酸化した銅表面は半田付性が悪くなりますので、 錫メッキをして銅の酸化物の生成を防ぐことも、 よく行われます。 ただ、良いことばかりではなくて、 高周波ケーブルに錫メッキ線を使うと、 表皮効果により表面に集中した電流が、 導電率の低い錫メッキ層を流れるため、 減衰が大きくなってしまいます。 それでは、導電率の良い銀メッキを使えば良いかというと、 今度は銀の酸化物の導電率が銅より低いため、 経時変化で減衰が増えるという結果になって、 これが、裸銅線が使われる理由です。 銅の酸化物は導電性がないため、この問題が起きません。

電線の絶縁材料の中にも、銅の変色を促進する成分が含まれることがあって、 一般的には仕様や管理の対象にはならないのですが、 当社の場合は、管理項目の1つとして扱っています。


追記 - この解説で「当社」というのは、沖電線に引き継がれる前のモガミ電線です。 古い原稿ですから残すのもどうかと思いますが、 link が多いので、もうしばらく残そうかと考えています。 防蝕技術は歴史が古く、既に多量の文献があります。 オーディオマニアの方々も、 玉石混合というより、嘘が圧倒的に多いインタネットの情報を鵜呑みにせず、 ご自身で勉強、調査して裏を取り、自分の頭で理解することで 真実に近付くアプローチをお勧めします。